先に結論
- 一括返済で減るのは残りの利息だけ。残高1,000万円・金利1.0%・残り10年なら約51万円(当方の試算)。金利が低く残り期間が短いほど小さい
- 同時に住宅ローン控除(期間中なら)と団信の保障もなくなる。そして返したお金は戻らない
- 先に退職金の手取りを出す。退職所得控除は勤続38年なら2,060万円で、それ以下の退職金なら税金はかからない(国税庁No.1420)
- 手元に残す額は、65歳の年金開始までの不足分・医療と介護の自己負担・家の修繕・予備から先に決める。医療と介護の自己負担には月の上限がある
- 全部か返さないかの二択ではない。一部だけ返して、毎月の返済額を下げることもできる

定年が近づくと、勤め先から退職金の見込み額が届きます。住宅ローンがまだ残っていると、「これで全部返してしまおうか」と考える人は少なくありません。
借金がなくなる安心は大きいものです。一方で、一括返済で減る利息は、思ったより小さいことがあります。そして返したお金は、あとで要るようになっても戻ってきません。この記事では、国税庁・住宅金融支援機構・厚生労働省の資料で、決める前に並べておく数字を整理します。
退職の前後の手続き(健康保険・年金・住民税)は退職前後の手続きチェックリストにあります。まとめて返すときの控除の考え方は繰上げ返済と住宅ローン控除にまとめています。この記事では、退職金と完済の話に絞ります。
先に、退職金の手取りを出す
返すかどうかを考える前に、退職金がいくら手元に入るのかを確かめます。勤続が長いと、退職金に税金がかからないこともあります。
退職所得控除と2分の1課税
退職金は「退職所得」として、給与とは別に税額を計算します(分離課税)。国税庁は、退職所得の金額を次の式で示しています。
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額
(国税庁 タックスアンサーNo.1420)
退職所得控除額は、勤続年数で決まります(1年未満の端数は1年に切り上げ)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
(国税庁 タックスアンサーNo.1420。障害者になったことが直接の原因の退職は100万円を加える。前年以前に退職金を受け取ったときなどは計算が変わる)
控除を引いた残りの2分の1に、所得税の税率(5%〜45%)がかかります。住民税は、同じ退職所得の金額に10%(道府県民税4%・市町村民税6%)です(地方税法第50条の4・第328条の3)。なお、勤続5年以下の短期の退職金や役員の退職金には、2分の1にしない扱いがあります。
勤続年数と金額で見る手取り
22歳で入社して60歳で定年を迎えると、勤続は38年です。控除額は800万円+70万円×18年=2,060万円になります。
| 退職金 | 勤続 | 退職所得控除 | 課税退職所得金額 | 所得税と復興特別所得税 | 住民税 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2,000万円 | 38年 | 2,060万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 2,000万円 |
| 2,500万円 | 38年 | 2,060万円 | 220万円 | 12万5,072円 | 22万円 | 約2,465万円 |
| 3,000万円 | 38年 | 2,060万円 | 470万円 | 52万3,262円 | 47万円 | 約2,901万円 |
| 2,000万円 | 30年 | 1,500万円 | 250万円 | 15万5,702円 | 25万円 | 約1,959万円 |
(当方の計算。一般の退職手当等、ほかの年に退職金やiDeCoの一時金を受け取っていない場合。所得税は国税庁No.2260の速算表で計算し、102.1%を掛けて1円未満を切り捨て。住民税は4%と6%をそれぞれ100円未満で切り捨てた簡便な計算)
この計算の式は、国税庁No.2732の計算例と同じ結果になります。退職金800万円・勤続10年2か月なら9万1,890円、2,300万円・勤続29年2か月なら38万322円です。
勤続が長い人ほど控除が大きく、手取りは退職金の額に近くなります。
「退職所得の受給に関する申告書」を出しておく
この申告書を勤め先に出していないと、退職所得控除を引かずに支払額の20.42%がいったん差し引かれます(国税庁No.1420)。払いすぎた分は確定申告で戻りますが、戻るまで手元のお金が減ります。一括返済の資金に充てるつもりなら、受け取る前に出しておきます。手続きの時期は退職前後の手続きチェックリストにあります。
iDeCoの一時金を先に受け取っていると、退職所得控除が調整されることがあります(2026年1月から、前年以前9年内の一時金が対象)。くわしくはiDeCo改正は2026年12月からにまとめています。
退職所得の課税は変わるのか
退職所得控除は、勤続20年を超えると1年あたりの額が40万円から70万円に増える仕組みです。この仕組みの見直しが話題になることがあります。
2026年10月17日時点で、直近2回の税制改正の大綱(財務省、2024年12月と2025年12月)を見ると、退職所得控除の額や2分の1課税を変える項目は入っていません。 令和7年度で決まったのは、iDeCoの一時金との重複期間の調整と、退職所得の源泉徴収票の提出の範囲です。
令和8年度の大綱では、令和9年分(2027年)から防衛特別所得税(税率1%)が始まり、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がります。国税庁は、合計の税率は変わらず、退職金の源泉徴収税額の計算方法も変わらないとしています(No.1420)。
次の大綱は2026年12月に出ます。退職所得の扱いが動いたら、この記事に追記します。
一括返済で減るのは、残りの利息
一括返済(金融機関の言い方では「全額繰上返済」)で浮くのは、これから払うはずだった利息です。元金は、いま返すか、これから毎月返すかの違いで、総額は変わりません。
残高1,000万円のときに、残りの期間に払う利息の合計を、金利と残り期間ごとに出しました。
| 金利 | 残り5年 | 残り10年 | 残り15年 | 残り20年 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5% | 12.8万円 | 25.4万円 | 38.2万円 | 51.0万円 |
| 1.0% | 25.6万円 | 51.2万円 | 77.3万円 | 103.7万円 |
| 1.5% | 38.6万円 | 77.5万円 | 117.3万円 | 158.1万円 |
| 2.0% | 51.7万円 | 104.2万円 | 158.3万円 | 214.1万円 |
(当方の試算。元利均等・毎月返済・ボーナス払いなし・金利は最後まで一定。残高が2,000万円なら、ほぼ2倍)
金利1.0%・残り10年なら、1,000万円を返して減る利息は約51万円です。1,000万円を手放して、10年かけて約51万円を浮かす、という取引だと考えると、比べる相手がはっきりします。
変動金利なら、この先の金利で減る利息は変わります。金利が上がれば大きくなり、下がれば小さくなります。金利が上がったときの返済額の変わり方は、住宅ローンの金利が上がったら返済はいくら増える?にあります。
完済にかかる費用
減る利息から、完済にかかる費用を引きます。
| 費用 | 公表されている例・決まり |
|---|---|
| 完済の手数料(フラット35) | かからない。窓口なら返済する1か月前までに申し出る(住宅金融支援機構) |
| 完済の手数料(民間の金融機関) | インターネットなら無料〜1万6,500円、窓口なら3万3,000円の例。保証会社の事務手数料1万1,000円を、戻ってくる保証料から差し引く例もある |
| 抵当権の抹消登記の登録免許税 | 不動産1個につき1,000円(登録免許税法 別表第一)。土地と建物で2個なら2,000円 |
| 司法書士に頼む場合 | 報酬は事務所ごとに違う。自分で法務局に申請することもできる |
(民間の金融機関の手数料は各機関の公表ページから。2026年10月17日時点。金額は消費税込み)
保証料を借入のときに一括で払っている場合、完済すると保証料の一部が戻ることがあります。戻る額は保証会社の計算で決まるので、借入先に確かめます。また、ローンを返し終えても、抵当権の登記は自動では消えません。金融機関から届く書類で抹消の登記をします。
一括返済で、同時になくなるもの
一括返済は利息を減らすだけではありません。ローンがあるからこそ受けていたものも、同時に終わります。
住宅ローン控除の期間中なら、控除もなくなる
住宅ローン控除は、年末のローン残高に0.7%を掛けた額を税金から引く仕組みです(令和4年以後に入居した場合。国税庁No.1211-1)。完済すれば年末の残高がなくなるので、その年から控除もなくなります。
定年の時点で控除期間が残っているのは、50歳前後で家を買った人などです。この場合、ローンを持ち続ける負担は、およそ「金利-0.7%」まで小さくなります。たとえば残高1,106万円・金利1.2%の年なら、利息は年に約13.9万円、控除は約7.7万円で、差し引きは約6.1万円です(当方の試算。控除を引ききれる税額がある場合)。
ただし、年金生活に入ると所得税が小さくなり、控除を引ききれないことがあります。引ききれない分は住民税から引けますが、上限があります。繰上げ返済と控除の比べ方は繰上げ返済と住宅ローン控除にまとめています。
団信の保障もなくなる
団体信用生命保険(団信)は、ローンを借りている人が亡くなったときなどに、残りのローンを返してくれる保険です。完済すれば、返す相手のローンがないので、団信の保障もなくなります。
逆から見ると、ローンを残している間は、万一のときに家族に「ローンのない家」と「手元のお金」の両方が残ります。一括返済をしたあとに万一があれば、家族に残るのは「ローンのない家」だけで、返済に使ったお金は戻りません。
後で出てくる例は、残高1,200万円・金利1.2%・残り12年のローンです。返し続けた場合、65歳の時点でも約721万円の残高があります(当方の試算)。その時点で万一があれば、この残高は団信で返されます。

団信があるから、生命保険を減らしていたんだけど……。

完済すると、その分の保障は消えます。団信を生命保険の代わりと考えていた人は、完済の前に、家族に残したい額と、いまの保険の保障を見直してください。
団信と生命保険の重なりは、団信に入ったら、生命保険はいくら減らせるかに整理しています。フラット35の新機構団信は、もともと満80歳の誕生日の属する月の末日までの保障です(住宅金融支援機構)。
返したお金は戻らない:手元に残す額を先に決める
一括返済のいちばん大きな特徴は、やり直しがきかないことです。返したあとに「やっぱり現金が要る」となっても、同じ金利で借り直せる保証はありません。年齢が上がるほど、借りられる期間も短くなります(後述)。
だから順番は、「いくら返すか」より先に「いくら残すか」です。
65歳の年金開始までのつなぎ
老齢年金は、原則65歳から受け取ります。60歳から75歳の間で、受け取り始める時期を選べます(年金は何歳から?繰上げ・繰下げ)。
65歳より前に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」は、生年月日で対象が決まっています。日本年金機構の案内では、男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれた人が対象です(共済組合等の老齢厚生年金を受け取る女性は、男性と同じ)。2026年に60歳になる人(昭和41年生まれ)の多くは対象外です。
一方で、65歳未満の定年を定めている会社には、65歳までの雇用を確保する措置が法律で義務づけられています(高年齢者雇用安定法第9条)。措置は、定年の引上げ・継続雇用制度・定年の廃止のどれかです。
だから60歳で定年を迎える人は、次のどれかで65歳までをつなぐことになります。
- 継続雇用(再雇用)で働く。給与や働き方は勤め先の制度で決まる
- 退職金や貯金を取り崩す
- 年金を繰り上げて受け取る(減額は一生続き、取り消せない)
再雇用の給与と、毎月のローン返済・生活費の差額×年数が、65歳までに要るお金の目安です。この分を一括返済に回すと、繰上げ受給を選ばざるをえなくなることがあります。65歳を過ぎて働くときの年金の扱いは在職老齢年金の基準額が65万円ににあります。
医療と介護の自己負担には、月の上限がある
老後の備えとして「医療費や介護費が心配だから現金を残す」という考え方があります。ただし、公的な制度には自己負担の上限があります。いくら残すかは、上限から逆算できます。
| 制度 | 自己負担の上限(月) | 年単位の上限 |
|---|---|---|
| 高額療養費(70歳未満・年収約370万円まで) | 6万1,500円(4か月目からは4万4,400円) | 53万円 |
| 高額療養費(70歳以上・一般) | 外来は個人ごとに2万2,000円、外来と入院を合わせて世帯で6万1,500円 | 53万円 |
| 高額介護サービス費(課税世帯〜課税所得380万円未満) | 世帯で4万4,400円 | - |
(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」、介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」。高額療養費は2026年8月〜2027年7月の額、高額介護サービス費は2026年10月17日時点の掲載。年収の区分ごとの全体の表は高額療養費制度が2026年8月に変わったにあります)
入院中の食事代、差額ベッド代、介護施設の居住費や食費は、この上限の外です。上限は目安の土台として使い、上限の外の費用を上乗せして考えます。高額療養費は2027年8月にもう一度見直される予定です。
家そのものにかかるお金
ローンを返し終えても、家にかかるお金は続きます。固定資産税は毎年かかります。築年数がたつと、外壁や屋根、水まわりの修繕が要る時期も来ます。マンションなら管理費と修繕積立金が続き、上がることもあります(マンションの修繕積立金・管理費はいくら?)。
手元に残す額の出し方
- 65歳までの不足分:(生活費+ローン返済-再雇用の手取り)×年数
- 医療・介護の備え:上の上限額を土台に、上限の外の費用を足す
- 家の修繕:この先10〜15年で予定される修繕の見積もり
- 予備:車の買い替え、子どもの結婚・住宅の援助、家電など
- 一括返済に回せるのは、退職金と貯金の合計からこれらを引いた残り

残す額を先に決めると、「返すか返さないか」は「残りをどう使うか」の話になります。全額返せなくても、残りで一部を返す道があります。
完済の年齢から考える
ローンを返し続けたら何歳で終わるのかも、判断の材料になります。
住宅金融支援機構のフラット35は、借入期間の上限を「80歳-申込時の年齢(1年未満切り上げ)」と35年の短いほうとしています。申込みは満70歳未満です(【フラット35】ご利用条件)。つまり、80歳までに返し終える前提で組まれたローンです。
民間の金融機関も多くが完済時の年齢を審査に使っています。国土交通省の「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」では、回答した994機関のうち978機関(98.4%)が完済時年齢を審査項目にしています。具体的な内容は「80歳未満」が732機関で最も多くなっています(令和8年6月の正誤表で修正後の値)。「85歳未満」とする機関も97あり、上限は金融機関ごとに違います。ただ、私は家づくりの相談窓口で住宅アドバイザーをしていましたが、そのころの実感では、80歳まで貸してもらえるかどうかはその時々で違いました。
借りたときに40歳で35年なら、完済は75歳です。定年のあとに10年以上の返済が残り、その間は年金から返すことになります。
返し続ける場合に確かめることは2つです。
- 年金の見込み額から、毎月の返済を払っても生活費が残るか(ねんきん定期便で見込み額を確かめる)
- 変動金利なら、金利が上がったときに返済額がいくらになるか
年金から無理なく払える額なら、急いで完済する理由は小さくなります。年金だけでは足りないなら、毎月の返済を下げるために一部を返す形が合います。
全部でなく、一部だけ返す
退職金の使い方は、全部返すか返さないかの二択ではありません。一部だけ返す方法には、2つの型があります。
| 期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
|---|---|---|
| 住宅金融支援機構の案内の言い方 | 月々の返済額は今までどおりの額にし、返済額に応じて借入期間を短縮する方法 | 借入期間は今までどおりの期間にし、月々の返済額を少なくする方法 |
| 向いている人 | 年金からでも今の返済額を払える。減る利息を大きくしたい | 年金生活の毎月の支払いを軽くしたい |
例として、60歳で定年、残高1,200万円・金利1.2%・残り12年(72歳で完済)・毎月8万9,519円のローンで比べます。退職金は2,000万円(勤続38年なので税金はかからない)とします。
| 一括返済(1,200万円) | 600万円を期間短縮型で | 600万円を返済額軽減型で | |
|---|---|---|---|
| 返済に回す額 | 1,200万円 | 600万円 | 600万円 |
| 退職金のうち手元に残る額 | 800万円 | 1,400万円 | 1,400万円 |
| 毎月の返済 | なし | 8万9,519円のまま | 4万4,759円 |
| 完済の時期 | 60歳 | 65歳10か月ごろ(残り5年10か月) | 72歳のまま |
| 減る利息 | 約89.1万円 | 約67.7万円 | 約44.5万円 |
| 団信 | なくなる | 完済まで続く | 72歳まで続く |
(当方の試算。元利均等・毎月返済・ボーナス払いなし・金利一定。手数料は入れていない)
この例で分かることは3つです。
- 一括返済と、半分を期間短縮型で返すのとでは、減る利息の差は約21万円。その差で、手元のお金が600万円多く残る
- 半分を期間短縮型で返すと、65歳を少し過ぎたところで完済する。年金を受け取り始めてまもなく返済が終わる
- 返済額軽減型なら毎月の返済は半分になる。年金からの返済を軽くしたい人に合う
フラット35の一部繰上げ返済は、窓口なら100万円以上、インターネット(住・My Note)なら10万円以上から、手数料なしでできます(住宅金融支援機構)。民間の金融機関は、額の下限と手数料が借入先ごとに違います。

いったん一部だけ返して、あとでまた返すのはあり?

ありです。数年ようすを見て、手元のお金に余裕があると分かってから追加で返せば、やり直しのきかない判断を小さく分けられます。
決める順番
- 退職金の手取りを出す(勤め先の見込み額と勤続年数で、退職所得控除を計算する。申告書を出す)
- 手元に残す額を決める(65歳までの不足分・医療と介護・家の修繕・予備)
- ローンの残りを確かめる(返済予定表で残高・金利・完済の年齢。住宅ローン控除の残りの年数)
- 一括で減る利息と、一部返した場合を比べる(借入先で全額・一部の試算を出してもらう)
- 団信がなくなったあとの家族の備えを確かめる
- 申し込む(フラット35の窓口なら完済の1か月前まで。抵当権の抹消の登記まで済ませる)
迷ったときは、手元に残す額を多めにして、一部だけ返すほうが、あとから選び直せます。返したお金は戻りませんが、手元のお金はあとからでも返済に回せます。
返済がつらくなったときに何が起きるかは、住宅ローンが払えなくなったらにまとめています。
住宅アドバイザーとして相談を受けてきて思うこと
家づくりの相談窓口にいたころ、退職金で一括返済しようと考えている方の相談をたくさん受けました。私の考えとしては、一括返済はおすすめしていません。
ただし、変動金利で借りていて、金利が上がり続けているような時期は別です。「金利が上がったらどうしよう」という不安を抱えたまま過ごすより、一括で返してローンのない状態になり、気持ちを安らかにする。そういう選び方も、もちろんありだと思います。
固定金利で金利が変わらないなら、払い続けるほうが手元のお金を残せます。まとまったお金が急に要るときにも、別のローンを組まずにすみます。一括で返さず、借りられるお金は借りておくという考え方は大事です。
一般論ですが、住宅ローンは、ほかのローンより低い金利で借りられるように作られています。あとでほかのローンを借りるくらいなら、住宅ローンを借りたままにしておくほうがよい、というのが私の考えです。
変動金利でも、退職金を受け取るころまで返してきたのなら、元金はかなり減っているはずです。残高が小さければ、金利が上がっても、実際に払う利息の額はそこまで変わりません。上の表で、残高1,000万円・残り10年なら、金利が1.0%から2.0%に上がっても、10年間の利息の差は約53万円(1年あたり約5万円)です(当方の試算。金利が最後まで一定の場合)。
2026年12月の税制改正大綱で見るところ
この記事の税金の数字は、2026年10月17日時点の法令によるものです。2026年12月に出る令和9年度税制改正の大綱では、次の点が動いたかを確かめて追記します。
- 退職所得控除の額や、2分の1課税の扱い
- 住宅ローン控除の控除率・期間・要件
まとめ
- 一括返済で減るのは、残りの利息だけ。残高1,000万円・金利1.0%・残り10年なら約51万円(当方の試算)
- 退職金は、退職所得控除を引いた残りの2分の1に課税される。勤続38年なら控除額は2,060万円
- 完済すると、住宅ローン控除(期間中なら)と団信の保障も同時になくなる
- 返したお金は戻らない。65歳の年金開始までの不足分、医療と介護の自己負担(月の上限あり)、家の修繕、予備を先に残す
- フラット35は80歳までに返し終える前提のローン。年金から無理なく払えるなら、急いで完済する理由は小さい
- 全部か返さないかの二択ではない。一部を期間短縮型や返済額軽減型で返す方法がある
- 元住宅アドバイザーとしては、一括返済はおすすめしていない。住宅ローンはほかのローンより低い金利で借りられるので、手元にお金を残しておく。変動金利で金利の上がる不安が大きいなら、返して安心を得る選び方もある
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- 団信に入ったら、生命保険はいくら減らせるか|フラット35の団信で確かめる
- 退職前後の手続きチェックリスト|健康保険・年金・住民税を期限順に
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- 住宅ローンは「借りられる額」と「返せる額」が違う|返済負担率の実勢と計算
- 住宅ローンの金利が上がったら返済はいくら増える?変動と固定の考え方
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率
- e-Gov法令検索「地方税法」第50条の2〜第50条の4・第328条の3
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- 財務省「令和7年度税制改正の大綱」
- 国税庁 タックスアンサー No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合
- 住宅金融支援機構【フラット35】「繰上返済」
- 住宅金融支援機構【フラット35】ご利用条件
- 住宅金融支援機構【フラット35】新機構団信の加入要件・保障内容
- 国土交通省「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」
- 国土交通省「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」正誤表(令和8年6月)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一
- e-Gov法令検索「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」
本記事は2026年10月17日時点で公表されている法令と資料に基づいています。試算は元利均等・金利一定などの前提を置いた目安で、実際の残りの利息は借入先の返済予定表で確かめてください。退職金の税額は勤め先と所轄の税務署に、完済の手続きと手数料は借入先の金融機関に、年金の見込み額は年金事務所にご確認ください。
よくある質問
退職金で住宅ローンを一括返済すると、いくら得をしますか?
減るのは、これから払うはずだった残りの利息です。残高1,000万円・金利1.0%・残り10年なら、元利均等で約51万円です(当方の試算)。そこから完済の手数料と抵当権の抹消の費用を引き、住宅ローン控除の期間中なら残りの控除額も差し引いて考えます。
退職金に税金はかかりますか?
退職所得として、給与とは別に計算します。退職金から退職所得控除額を引き、その2分の1が課税の対象です(国税庁No.1420)。勤続38年なら控除額は2,060万円なので、退職金がそれ以下なら所得税も住民税もかかりません。「退職所得の受給に関する申告書」を出していないと、いったん20.42%が差し引かれ、確定申告で精算します。
一括返済すると団信はどうなりますか?
団信はローンの残りを返すための保険なので、完済すれば保障もなくなります。フラット35の新機構団信は、もともと満80歳の誕生日の属する月の末日までの保障です。団信を生命保険の代わりと考えて保険を減らしていた人は、完済の前に家族の備えを見直してください。
退職金で全部ではなく一部だけ返す方法はありますか?
あります。一部の繰上げ返済には、毎月の返済額を変えずに期間を縮める型と、期間を変えずに毎月の返済額を下げる型があります。年金生活の家計で毎月の支払いを軽くしたいなら返済額を下げる型、減る利息を大きくしたいなら期間を縮める型が合います。



